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人情噺とブランディング。

  • Ikegami Tomoko
  • 2019年6月10日
  • 読了時間: 2分

「なぜこの社名なんですか?」初めてお会いした人から、よくこうお尋ねいただく。

「実家がこの屋号で両親の代まで商売をしていたので、屋号だけ引き継いで・・・」とお答えする。この答えもウソではないのだけれど、実はそれだけだったら、この社名にしていなかったかもしれない。

うちの実家の商売は、わたしの高祖父の「広助」さんが江戸時代の終わり頃に始めたものらしい。若かりし広助さんは、あるとき故郷を出て江戸の商店へ奉公へ行った。何年か働き、その後お嫁さんといっしょに故郷へ戻ってきて「広助商店」を開いた。そしてその連れて来たお嫁さんというのが、江戸の遊郭から身請けしてきた人だったという話だ。「おー、『紺屋高尾』じゃん!」わたしはその話を聞いてかなりはしゃいだ。自分の祖先に、落語の中でも特にわたしの大好きな人情噺のような馴れ初めがあったなんて!『紺屋高尾』は、染物屋の奉公人の久蔵が、高尾太夫という位の高い相当ムリ目な花魁に恋をし、とにかく頑張って頑張って働き、3年分のお給料をはたいて会いに行くという話だ。その一途な想いは高尾太夫の心を打ち、結局ふたりは夫婦となって染物屋の店を開く。この人情噺と広助さんの話は、わたしの中で完全に重なり、ムクムクと広助さんたち夫婦がヒーロー・ヒロイン化した妄想がわき起こった。こうなると子どもの頃は恥ずかしかった「広助」という屋号にも、愛おしさや、ちょっとした誇らしさを感じるようになった。

ブランディング中でも従業員を対象としたインナーブランディングでは、その組織で働いていることや、そこでの仕事に愛着や誇りを持つこと。それをそれぞれの心にどう醸成するかが重要だ。たとえばそれは、組織のルーツや歴史を知ることで育まれたりするのだけれど、その組織が何をやってきたかといったファクトだけでなく、先人たち一人ひとりの感情に目を向け、想いをイメージすることが必要だと思う。ブランディングを考える人間として、そういうことを理屈ではなく「ああ、こういうことなんだろうな」と自分ごととして実感するのはとても大切だと思う。それを広助さんがさせてくれたような気がした(わたしの妄想ベースながらも)。そんなこんなで、両親の代までの想いを引き継げたらと、わたしは「広助企画」という社名にした。

この高尾太夫と久蔵さんほどの純愛物語ではなかったにしても、わたしは高祖父母の物語を妄想した。
高尾太夫の浮世絵

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